Ever blue












手を大きく挙げて伸びをした。
一瞬、本気で掴めるのではないかと思うほど近く。
初めて井戸を抜けて最初に見たあの空と同じ色。
空を切った両手はゆっくりと落ちてきて目の前で止まる。
澄んだ空気の欠片でも残っていそう。
かごめはじっと掌を見つめた。







弥勒と珊瑚が楓の薬草を調達しに村を出たのは今朝早くらしい。
かごめは一日だけテストで現代に帰っていて、
先ほど戻ったところもう二人の姿は無かった。

ふと、現代にもどる前に弥勒と交わした言葉が思い出される。


「かごめ様、我々は1、2日留守にしますから戻られたら犬夜叉のこと頼みましたよ。
あ、ついでに七宝は楓様と一緒に隣村です。すぐには戻らないでしょうなあ」

こういうことを言い出すのは常に含みがあってのことで、
かごめは思わず赤くなって俯いてしまった。
聡い法師のこと、きっとかごめの気持ちに気付いているのだ。

「弥勒さまも珊瑚ちゃんに変なことしちゃだめよ」
「私も?ということはかごめ様・・・やりますな」
「ち、違うわよ、もう!すぐそういうこと言うんだから。でも・・・ありがとう」
弥勒は柔らかい笑顔で黙って頷いた。







「ね、犬夜叉。こうして二人きりでのんびりするのも久しぶりだね」
「そっか?」
「そうよ。村にいても皆一緒だし。それとも妖怪と戦っているか、でしょ?
なんか不思議だね。最初は二人だったのに今は仲間も増えて」

「今日は煩ぇのがいなくなってせーせーしたぜ」



木陰を作る緑の中は地表より渡る風も涼しくて
犬夜叉の銀髪とかごめの黒髪がキレイになびく。

時折二人の邪魔をするように悪戯な強風が駆け抜けていった。



「痛っ」
「どうした・・・。っおい、引っ張んなよ」
「違うわよ、髪が絡まって・・・痛いってば、犬夜叉こそ引っ張らないでよ」
「ばっ。おれは何もしてねえっ」
「ちょっと待ってて今ほどくから。引っ張ったら切れちゃう」
「別に切れたって構いやしねえ」
「あたしが嫌なの」



複雑に絡まってしまった二人の髪は解こうとするかごめの手を止める。
(なんか、嬉しいかも・・・)
こんな風に簡単に離れられないように傍にいられたらどんなにいいだろう。
何の問題もなくいつまでも一緒にいられたら。
すべてが終わってしまったら・・・。
いろんな考えが巡る。
初めて犬夜叉に出会ったあの日から。
自分の犬夜叉への想いに気付いたあの時。
振り返ってみると色んなことがありすぎて。
今はただ一緒にいたい。
その想いだけが変わらない。



「おい、まだかよ」
「あっ、ごめん。なんかすっかり絡まっちゃってて・・・。あ・・・あれ?四魂の気配が・・・」
「ちっ」
あっと言う間に到達したつむじ風が木の下で止まって再び強風を誘う。
「きゃっ・・・。鋼牙くん?」
「ってめえ。何しにきやがった!」
「よう、かごめ〜。そんなとこで何してんだ?」
「おれの質問に答えやがれっ」
「煩ぇ、犬っころ!てめえこそかごめに引っ付き過ぎだろ。離れろ!」
「あんだとっ」
「いたっ。ちょっと犬夜叉、まだ動かないでよ」
「あーもう。じっとしてろ」
犬夜叉は鋭く尖った爪を自分の髪に当てて掻き切ってしまった。
「最初からこうしてれば早かったぜ」
「あ。もったいないっ」
「髪なんてすぐ伸びるだろうが。こんくらい何でもねえ」
パラパラと落ちた髪は銀色だけで、黒いかごめの髪は1本も混ざっていなかった。
「もう・・・。犬夜叉の髪だからもったいないって言ったのに・・・」
黒髪を避けて自分の髪だけ・・・かごめは思わず赤くなる。
(変なとこ気を使うんだから・・・)



その犬夜叉はというと勢い良く飛び降りて鋼牙と対峙していた。
「ちょっと犬夜叉ーっ、ケンカしないでよ!」
「かごめは黙ってろっ」
「犬っころ、どっちがかごめを貰うか今日こそ決着着けるか」
「ばーか。てめえなんかに負けるかよ」
じり、と距離が縮まって犬夜叉の手が鉄砕牙の柄に添えられる。


緊迫した空気がかごめのところまで届く。
(もう、なんですぐこうなっちゃうのよ。・・・しょうがないわね)
すっ、と意を決したように息を吸い込んだ。
「あ!四魂の気配!」
「「何?」」
同時に発した声に些か驚きながらもかごめは続ける。
「あっちよ、すごい速さで移動してるわ」
「おれが頂くぜ。速さなら負けねえからなっ」
鋼牙は片足に力を入れて蹴り出すともの凄い速さで、
あっと言う間に見えなくなってしまった。
「あーっ。ちくしょう待ちやがれっ」
「犬夜叉!」
「かごめ!早く来い!」
今にも飛び出していきそうな勢い。
「ごめん!あれウソなの」
「早くしろ・・・って。は?嘘?」
『ウソ』という言葉に反応して獣耳が小さく動いた。
「だってケンカしそうだったし・・・・・」
「おまえなあ」
「それに、あたし一人じゃここから降りられないわよ」
「あ?ああ、そっか」
ポリ、と頭を掻くと、軽やかに跳んでかごめの隣に座る。



「鋼牙くんには悪いことしちゃったけど、せっかく二人でゆっくりしてたのにな、と思って」
かごめの言い訳を聞いて犬夜叉は顔を赤らめる。
「けっー。いい薬だろうぜ。かごめにちょっかいばっか出しやがって」
「あたしはちょっと嬉しい」
「なっ、鋼牙にちょっかい出されるのが嬉しいのか!?」
「違うわよ。・・・犬夜叉がヤキモチ焼いてくれるから・・・」
「ば、ばっ、ばっかじゃねぇの。そんなもん・・・」
さらに照れた顔は慌てて視線を外す。
「ふふっ明日までゆっくりできるね」
「・・・・・・ちょっと、あっち向いてろ」
「え?うん」
いきなりの言葉に意味が分からないまま言う通りにした。



さわ、と風が流れる。
犬夜叉は靡く黒髪に手を入れると向けられた左頬に唇を寄せた。
「っ」
思いがけない行動。
かごめは口付けされた頬に手を当てると慌てて振り向いた。
「犬夜叉・・・・・・どうしたの?熱でもあるんじゃ・・・」
「べ、別に・・・ただ・・・こうしたかったからしただけだ、文句あっか」
ぶっきらぼうな口調はいつものとおり。
赤く染まる顔を見せたくないのか、先ほど触れた黒髪に再び手を添えると
小さな頭を自分の肩口に押し当てた。
「ありがと・・・すごく嬉しい」
袂のせいで照れているだろう彼の顔は見えなくても、犬夜叉の匂いに包まれる。
全身で感じる安心感。
頬のぬくもりは一瞬だったけれど。
それだけで充分だった。
自分の願いに答えてくれたような気がしたから。



『いつまでも一緒にいられるよね』



きっと叶う、と。
まっすぐ手を伸ばして。
掴めると信じていれば届く。
すぐそこにあるあの空に混じり合うくらい。
二人の距離はこんなに近いのだから―――




− Thank you 1st Anniversary -

「PLATINUM」のきか様が1周年を迎えられました。

澄み渡った…ぬけるようなblue sky…
そして、ピュアで、甘〜い二人vv
ほっぺにチュウする犬君に、キュンときます。
きっと、耳まで真っ赤になっていたことでしょう。

そして…やっぱり、弥勒様がいい味出してます。

きか様、1周年、おめでとうございます。 

きか様のサイトへは、リンク集からどうぞvv