うららかな春のとある日、かごめが“お弁当”を持って戦国に来た。



「ね、犬夜叉。お花見に行こうよ。」

「あー?何でわざわざ花を見に行かないと駄目なんだよ・・・」

「もう・・・たまにはいいじゃない。折角のお天気だし、桜、満開なんだよ?」



ね、お願い・・・とちょっと首を傾げて頼むかごめに、何故か目を奪われた犬夜叉は

それを隠すように顔をそらせると、ぶっきらぼうに言った。



「けっ!しょーがねーな。」

「わっ、ありがとっ!犬夜叉!実はね・・・」


かごめは荷をゴソゴソすると、風呂敷で包んだ箱を出した。


「犬夜叉と食べようと思って・・・お弁当作ってきたの。」

「おれ・・・と?」

「そうよ、さ、行きましょう。」



すたすたと歩き始めたかごめに追いつくと犬夜叉はその横を歩き始めた。













『桜雲(おううん)に乗せる想い』











「うわ〜〜綺麗・・・・」


連なって咲く桜の木に、かごめは息を呑んだ。
現代でも桜はあるが、兎に角人が多い。
酔っ払った男やら、出店やら・・・
落ち着いて花を愛でる雰囲気ではないのである。
しかし今、かごめの前に現れた桜並木は・・・・


ただ、さわさわと風に揺れる枝と花と
その風に舞う薄桃の花弁


時々漂う甘酸っぱい桜の香り


花びらを追うように走るかごめを犬夜叉は目を細めて眺めていた。
零れる笑顔と、桜に混じるかごめの匂い。



「犬夜叉ー!ここでお弁当を食べようー。」



いつの間にあんなに遠くまで走っていたのだろう。
おれは、かごめの姿だけを見つめていたのに。



「やっぱり・・・ココはいいね。」

「え?」

「やっぱりお花見は現代じゃなくて、戦国に限るなーって思ったの。」

「・・・・・」



おれは何と答えたらいいのか言葉を探す。



「桜・・・なんて、どこで見ても一緒だろ。」

「違うわよ。」

「わざわざここで見なくてもおまえの国でも咲いているじゃないか。」


――――どうしておれはイライラしているんだ?


「おれにはここの桜もおまえの国の桜も一緒に見えるぜ。」


――――どうして・・・?多分、おれは・・・


「違う・・・どうしてそんなこと言うの?」



弁当を広げていたかごめの手はいつの間にか止まってしまい、
犬夜叉が気づいた時にはすでに遅く、
かごめの頬に涙が流れていた。



「ただ、あんたと一緒に桜を見たかっただけなのにっ・・・」

「かご・・・・」

「どうしてそんな風に言うの?もう、あんたなんて大嫌いっ!」



かごめは立ち上がり、来た道へ走ろうとする。



「お、おい・・・待てよっ!」



犬夜叉はかごめの手首を掴む。



「放してっ!」



その手を払い犬夜叉へ向かって言霊を言うと、かごめは走り去った。




桜吹雪の中で、残ったのはひっくり返ったお弁当の残骸と、犬夜叉。




「・・・・あの女っ!!」



なんなんだよ・・・
おれ、何か悪いことを言ったか?


笑ったかと思ったら、いきなり怒りやがって・・・



「勝手にしやがれっ!」



ふんっとお弁当の残骸から目を逸らすと、犬夜叉もまたこの場所を後にした。



























――――ただ・・・犬夜叉と一緒に桜を見たかっただけなのに



かごめはそのまま骨喰いの井戸に飛び込むと、現代へ帰った。
ついさっきまであったウキウキした気分は冷水を掛けられたように濡れそぼって
残ったのは恥ずかしさと悔しさ。



(やっぱりアイツは私のことなんて、なんとも思ってないんだ・・・・)



もしかしたら、犬夜叉から想われているかもしれない・・・と
少しだけ思ってしまった自分が恥ずかしく、悲しかった。



「もう・・・顔、見れないよ・・・」



四魂の欠片探しの旅はまだまだ続く。
犬夜叉がいないことにはかごめは戦国で欠片を探すことができない。


勝手にお弁当を作って、
無理やり犬夜叉をお花見に誘って、
挙句の果て、おすわり発動。



「私・・・すっごく嫌な女だよね・・・」



かごめはベットに倒れこむと、枕に顔を埋めた。






いつから、犬夜叉を意識するようになっていたんだろう。

乱暴で我儘でコドモで。
でも、いつも守ってくれて
いつも背中に乗せてくれて

ねぇ、犬夜叉

あんた、気づいてる?
私、あんたの背に乗っているとき
身体全身であんたを感じてるの

太陽を浴びた温かい衣
顔をくすぐる柔らかい白銀の髪
そして、あんたの匂い・・・

いつまでも乗っていたい気分になるんだよ。

でも、それも独りよがりだったんだよね・・・


そう、片想い・・・




























――――ったく、かごめのやつ・・・さっさと戻ってきやがれっ


かごめが国に帰ったのは匂いでわかった。
この地にはもう既にかごめの匂いは残っていなかったのだ。


(大体、何で泣くんだ?)


かごめの国の桜とここの桜が綺麗だの綺麗じゃないだの・・・

確かにかごめの国はどこへ行っても人が多く
桜なんてゆっくり見ることもできないのかもしれない。


(・・・でも、泣くほどの問題か?)


かごめが走り去って、犬夜叉の足はいつの間にか井戸の近くまで来てしまった。



――――あんたと食べようと思って・・・



確か・・・かごめはそう言った。


おれ・・・と?


長年、独りで生きてきた犬夜叉にとって
常に人が側にいる感覚はこそばゆい。



また、裏切られる?
また、いなくなる?



そう思ったとき、自己防衛が始まるのだ。


どうせ人なんて信じられない。
信じられないなら、最初から信じなかったらいい・・・・


多分・・・あの時も。



――――あんたと一緒に桜を見たかっただけなのに



そんな筈はない。

そんなわけないだろ。

こいつ、本心でそんなことを言っているのか?



信じられない・・・と思う反面、
心はその言葉に反応した。

なんか・・・心が温かかった。

でも、おれは・・・それが恥ずかしくて。

そんな自分を哂った。



おれは・・・



――――あんたなんて大嫌いっ!



好かれているなんて思ってなかった。
でも、嫌いって言うのは・・・嫌いじゃなかったってこと?



「くっそ・・・・」



木の上で寝転んでいた犬夜叉は、飛び降りると
すぐ近くのかごめの国に通じる井戸へ飛び込んだ。




・・・・え?




おかしい・・・いつも、妙な浮遊感と共にかごめの国に着くはず。
でも、井戸に流れる空気はいつもと同じく戦国(ここ)。



「なっ・・・」



犬夜叉は井戸のそこから空を見る。



「通り抜けてねぇ?」



かごめの国の井戸は、祠の中にあるため空は祠の天井。



「な・・んで・・・・・」



犬夜叉は、井戸の外に出ると再び飛び込む。

しかし・・・



「もう・・・通り抜けられないのか・・?」



どうして・・・



「かごめっ・・・」



もう・・・会えないのか?


おれは・・・会いたいのに!

話したいことだって、連れて行ってやりたい場所だって

一杯・・・一杯あるのにっ!!



「かごめーーっ!!」



心が千切れるのではないかというくらいの悲しさを感じて、
身体は震える。












“はっ!”






がばっと身体が起き上がったことで、犬夜叉は目を開いた。


――――ゆ、夢?


目覚めた犬夜叉の目の前にひらひらと飛ぶ小さな紋白蝶

ここは・・・井戸近くの木の上
陽だまりにうとうとと眠っていたことに気づく。


変な汗が背を流れる。



「何て・・夢だ・・・」



夢の中でかごめを失った喪失感がまだ消えない。


(まさか・・・正夢じゃ・・・)


慌てて犬夜叉は木から飛び降りると
まっしぐらに井戸を目指す。



























「あ・・・」



私、寝てしまったのね・・・

ベットから身を起こすと、かごめは窓を開ける。



「桜・・・でも、見に行こうかな・・・」



かごめの家の近くにも桜並木はある。
恐らく、平日のこんな時間なら人はまばらなはずだ。

制服を着替えようとクローゼットを開いた時、
窓から突風と共にかごめに巻きついた、緋の衣。



「かごめっ・・・」

「い、犬夜叉?」



何故、犬夜叉がここに?
大体・・・この体勢・・・

はっと気づくと、かごめを羽交い絞めしている犬夜叉の腕。



「い、い、犬夜叉っ・・・あんた、何・・」

「あっ・・・」



かごめの声で、その拘束は解かれた。


――――これって・・・抱きしめられてたんじゃ・・・・


気づくとお互い頬が火照る。



「す、すまねぇ・・・」



かごめは、恥ずかしくて後ろを振り返られない。



「か、ごめ・・・」

「な、何・・・」



妙な沈黙が流れる

口を開いたのはかごめだった。



「ご・・めんね。言霊なんて言っちゃって・・・」

「いや・・・おれも・・・」



犬夜叉は意を決して口を開く。



「かごめ・・・桜、見に行こう。」

「え?」

「ほらっ・・」



犬夜叉はかごめを横に抱えると、そのまま窓から飛び降り祠の井戸へ向かう。



「ちょっと・・・犬夜叉っ!」



抱えられて下から見る犬夜叉の横顔には何の感情も見えない。

――――でも・・・迎えに来てくれた・・・・・

それだけでかごめの心は温かくなる。
嬉しくて、目に涙が溢れるのを必死で止めた。









戦国に着いてかごめを背に負いなおすと
犬夜叉はさっきかごめがお弁当を広げた場所へ戻った。


ピクニックシートの上でひっくり返ったご飯類も何故か箱の中へ収まれ、
ぐちゃぐちゃではあるが、食べられないわけではなさそうだ。



「あんた・・・」

「その・・・すまなかったな・・折角作ってくれたのに・・」

「え?」

「・・・悪かった。」



ぽつぽつと口から零れる言葉は
風に乗ってかごめの心に沁みる。



「犬夜叉・・・」

「おれ・・・」

「・・・食べよう、犬夜叉!」

「え?」

「ほら、立ってないで座って。」


かごめはにっこり笑って、とんとんとシートを叩く。


「お、う。」












・・・・別に、片想いでもいいじゃない。
不器用で、でも、心は本当は優しくて。
優しくする術を知らないこの男(ひと)を、私は好きになったんだから。



傍にいるだけでいい。

話せるだけでいい。

背に乗って、風を切って
二人で色んなことを乗り越える

その時、きっと二人の間に切れない絆が生まれる・・・・私はそう思いたい。

















風に乗ってきた花弁がかごめの顔に髪に絡まる。

涙の跡に張り付いた花弁を犬夜叉はそっと摘むとかごめに渡した。

掌に乗った薄桃の花弁はまた風が攫って飛んで行ってしまった。

どこまで飛んでいくのだろう?

果てることない花弁の旅もいつか終わることがあるのだろうか。

飛んでいく花びらを目で追っていたかごめの頬にそっと添えられた温かい手。

その指は涙の跡をなぞっていく。



「・・・犬・・や・・しゃ」



額に感じる犬夜叉の髪と頬を挟む大きな手。




そっと目を閉じたら・・・そこは桜雲の中。
















fin







.............Dear みらち...............

開設1周年、おめでとうございます!
早いものですね・・・もうみらちと知り合って1年。
その間にオフ会だとか、イベントだとか色々あって・・・・今に至る(笑)
リクエストに沿った内容とは、全く思えないのですが(汗)
・・・エロくないし(殴)
・・・甘くないし(殴×2)
音楽流れてないし・・・(爆)
こんなものしか書けませんでしたが、お受け取りくださいませ。
益々のご発展を影ながら応援しておりますv

2006.04.30 瑠璃



     ■みらのコメント■

るっちんありがとうございました!!
1年って早いものですね…。今までいろいろありました…。

私からのリクは…

●犬夜叉と喧嘩して、実家に帰るかごちゃん。
●井戸が閉じて、戦国に戻れなくなったかごちゃん。犬夜叉も井戸を通れない。
●募る二人の想い。BGM♪ヒロミ・ゴウ
●どーにかして井戸開通。やっと会えた二人。
●もうどんな事があっても放さないと心に誓う犬夜叉(微妙にエロく)。
●最後は限りなく甘く。

…なんか、すごく独りよがりなリクですみません…><;

ちゃんとリク入ってますv夢オチでよかったです^^
甘いですよ〜。音楽は冗談です…^^;
犬君とかごちゃん、何気ない瞬間を大事にしてお互いの想いを育んでいって欲しい…
そんな私の願いも汲んでいただき、しかも、大好きな桜のイメージv
すごく嬉しいです。
風に飛ばされた花弁を目で追うかごちゃんの、頬に添えられた温かい手…
美しい情景が目に浮かびますvv

お忙しい中、本当にありがとうございました!!
これからも、よろしくお願いします。

『瑠璃の天』様へは、リンク集からどうぞ。

             
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