第二話 

 
  「ふぅー…っ」
  今日何度目かの溜息をついて、かごめは膝を抱えた。
  ひとりになると、気持ちも落ち着いてきて、冷静に物事を考えられるようになってきた。
  すると、なんだか矛盾しているように思えてきた。
  …ただ手紙を貰っただけなのに、なぜ責められなければならないのか、と。

  「…なによ、自分は桔梗との事棚に上げて、私ばかり責めるの?」
  なんだか腹が立ってきた。
  「いつも桔梗と逢うと、二人の世界作っちゃうくせに…。独りで行っちゃうくせに…っ」

  苛立ちは哀しみに変わり、泣きたくないのに、涙が零れた。

  「もっ…な…んで涙なんか…」
  心の隅に閉じ込めて考えないようにしていた感情が、溢れてくる。

  どんなに傍にいても、どれだけ唇を重ねても、心が通じ合ったと思った時でさえ
  拭いきれない不安がある。

  いつも、犬夜叉の心の中には桔梗がいて……

  桔梗といる犬夜叉はなんだか別人みたいに大人びていて…
  やっぱり自分が立ち入る隙なんてないのではないかと思い知らされる。
  そしていつか、いってしまうのではないか…?私を独り置いて……(桔梗と……?)

  ゾクッ……

  言い知れない不安と嫉妬に心を支配されそうで、かごめは膝を強く抱きしめた。

  …わかってる。犬夜叉と桔梗の絆。わかっていてここに、犬夜叉の傍にいると決めたのだ。
  傍にいられる、それだけでいいと思っていた…だけど……どんどん欲張りになってしまう自分もいる。
  犬夜叉にとって、自分は何なのか、どう思われているのか、確かめたくて言葉が欲しくなる。

  桔梗の存在は大きすぎて……

  でも、この犬夜叉を想う気持ちだけは、止められないーー…これから先きっと、もっと…

  

     …………犬夜叉の気持ちは…………?

  
  ……だから……いつも苦しくて………

  「犬夜叉…早く戻って来て…」

  不安に押し潰されそうだった。

 

 

  「…?」
  かごめは近づいてくる四魂のかけらの気配に顔を上げた。
  かけらの数は……

  「よぉっかごめっ!」
  声の主が勢いよく駆け寄ってきた。
  「鋼牙君!」
  「何してんだこんなところで」
  それはこっちのセリフである。
  「鋼牙君こそ…」
  「ちょうど近くを通ったら、かごめの匂いがしたから…元気だったか?」
  言いながら、鋼牙は早速かごめの手を握る。

  「ン?犬っころはどーした?」
  「う…ん…」
  「かごめ…泣いてたのか?」
  鋼牙が顔を近づけて言った。

  「あ…これは…」
  「…あいつか?あの犬っころか?」
  「違っ…」
  「…そーいや、ムカつく犬の臭いがしねぇな。かごめ一人なのか?」
  「違うよ…」

  今日が朔の日であることは、かごめも気付いていた。それを鋼牙に言っていいものか、かごめは迷っていた。

  「ワケアリって顔だな。とにかくお前を一人にしとかれねぇ。」
  「私は大丈夫だからっ」
  「大丈夫じゃねぇだろっ!」

  突然腰をグイッと引き寄せられ、かごめは鋼牙の胸に倒れこんだ。

  「鋼牙君っ!?」
  「アイツのせいなんだろ?泣いてたワケは。だったらもうアイツの元には帰さねぇっ」
  「あの…鋼牙君っ放して…っ私っ…」
  「お前を泣かせるようなヤツはオレが許さねぇ」

  そう言って鋼牙はかごめの顎に手をかけた。

  「もう犬っころなんて忘れちまいな。」
  「鋼牙君っやめっ…」
  かごめは必死に逃れようとするが、鋼牙の力に敵うはずもない。
  「やっ……」
  その時だった。

  「何してやがんだっ痩せ狼ーー!」
  鉄砕牙を抜きながら犬夜叉が走り寄ってきた。
  素早くかごめを引き離すと背に庇い、鋼牙を睨みつける。

  「犬っころ…いたのか?臭いがしねぇし、刀も弱そうなままじゃねぇか……ああ?今日は人間になる日か…?」
  「…やっぱ殺しとくんだったぜ…」
  犬夜叉が低く言い捨てた。
  「へっ錆刀ですごんでんじゃねぇ。どっちにしろ今日こそケリつけてやる」
  鋼牙は指の関節を鳴らしながら
  「待ってろかごめ。すぐ済むからな。そしたらオレと来い」
  犬夜叉越しにかごめに言った。
  「バカかテメェっ!なんでかごめがテメェと行くんでぃっ!」
  刀を構えて犬夜叉が叫ぶ。
  
  「バカはてめぇだ、犬っころ!かごめを泣かせやがって!」
  「なっ…に?!」
  犬夜叉はかごめを振り返った。
  
  「犬夜叉危ないっ」
  かごめが叫ぶと同時に鋼牙が腕を振り下ろした。

  間一髪身をかわした犬夜叉は、姿こそまだ変わっていないが、妖力を失いつつある。
  人間の力で戦うには限界があった。

  「…よけるので精一杯か。わかったろかごめ。こんな弱ぇヤツ、やめちまいなっ
  オレは絶対かごめを泣かせたりしねぇ!」

  「…んだとっ言わせておけば…っ」

  ガツッッ

  瞬間、鋼牙は一体何が起こったのかわからなかった。岩肌に叩きつけられる寸前のところで、踏みとどまる。
 
  …血の味…オレの……?

  頬に鈍い痛みを感じた。

  「もう終わりかよ、さっきまでの威勢はどうした痩せ狼っ」

  犬夜叉が鋼牙を見おろして言った。

  …犬っころが…やったのか…?バカな…このオレが…人間の…

  「犬夜叉…鋼牙君…」

  かごめは見ていた。犬夜叉が鋼牙を殴りつける姿を。

  「…マグレに決まってる…もう容赦しねぇぜっ犬っころっっ!」

  鋼牙は犬夜叉めがけて腕を振り上げた。

                
    第三話へ続く                                     


     
 あとがき

      いいところでの、お約束「ちょっと待ったコール」。
…やっちゃいましたvvv(顰蹙…?)
鋼かごの神は早々に立ち去られたようです。
お引止めしたんですが…。                     
鋼かごの神よ!カムバーック!!

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