3.

 
「犬夜叉何か食べる?夕方、お料理手伝ったときに少しもらってきておいたんだけど…。」
「そういや腹減ったな。」

 小さな家にはあまり物がない。必要最低限こちらでの生活に困らなければいいとかごめが現代から持参したものはほとんどなかった。
たとえ現代では便利な物だったとしてもここ戦国時代には当然電気もないし意外と使えるものはなかった。
 現代での生活に慣れた身に多少不便さは感じていても犬夜叉と二人で生活できることがかごめにとってこの上ない幸せで。

 ――犬夜叉は?

 心臓の音が聞こえる。足を一歩踏み出すごとにとくん、と。止めるならまだ間に合う。無理やり聞き出さなくてもいつか言ってくれるかもしれない。
犬夜叉が自分から言い出してくれることに意義のようなものがあるのではないか。さっきの出来事だって犬夜叉はかごめのことを守ってくれて――。
けれどどうしても聞きたかった一言は言ってはくれなかった。かごめは心の中で一人葛藤していた。

「かごめ?どうかしたのか?」
「う、ううん。なんでもないわ。」
 
 危うく抱えていた甕を落としそうになった。

「呑むつもりか、それ?」
「せっかくだから…犬夜叉も、どう?」
「俺はいらねえ。だいたいおまえ酒呑めんのか?」
「の、呑めるわよ!」
「何だよ、いきなり何怒ってんだよ。」
「え、と…だから犬夜叉も一緒に、」
「いいって。早く飯にしようぜ。」
「あ…、そうね…うん。」

 無理かも…。

 諦め半分、破れかぶれ半分。かごめは犬夜叉の隣に座ると猪口に注いだ酒を勢いよく飲み干した。

「おい、そんな呑み方して大丈夫か?」
「平気よ。これ美味しいー。」
「ったく、ほどほどにしとけよ。」

 ガードが堅い。かごめはこんなに苦戦するとは思っていなかった。正直かごめが呑めば犬夜叉も呑んでくれるだろうと思っていたので、この後の対策がまったく浮かばなかった。
思案しながら手にした猪口は空になるのも早く、甕は少しずつ軽くなっていった。



 いつのまにか犬夜叉の膝の上。かごめは向かい合わせに首に回す。着物の袖が捲くれて白く細い腕が覗いていた。



「か、かごめ…てめ、簡単に酔っ払っいやがって!……とりあえず降りろ。」
「酔っ払ってなんかないわよぅ。ねぇねぇ…犬夜叉はぁ…あたしのこと好きなの?」
「…ハ?」
「何で一緒に暮らしてくれるの?」
「ちょっ、ちょっと待てッ!いきなり何を言い出すんだよ!?…酔ってんだろ?酔ってんだよな!?」
「あたしねぇ…ずぅっと考えてた。」

 かごめは犬夜叉の胸元に額を押し付けるように凭れた。少しだけ置き場を悩んだ犬夜叉の手がかごめの頭の上に置かれる。

「3年も犬夜叉に会えなくて、でもどうしたらいいのか分からなくて…やぁっとこっちに来られたけど…。犬夜叉は?…本当にあたしと暮らしたかったのかなぁ…。」
「か、ごめ…。」
「あたしが一人じゃ危ないからって、弥勒さまとかぁ珊瑚ちゃん、楓ばあちゃんに押し切られて仕方な〜く一緒に住んでるんじゃない?」

 たどたどしいがゆっくりとかごめの言葉は紡がれていく。犬夜叉の体中に突き刺さるそれは、まるで柔らかい棘のようだった。







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