ドォーーーンッ!!

 

 

 

大地を揺るがす轟音とともにいきなり光の柱が現れて
そのまばゆい光の中に、消えたはずの井戸が見えた。

 

おれ達は迷わず飛び込んだ。

 

 

―落ちていく。

 

今まで何度も感じてきた、どちらかの世界に繋がっているのだというその感覚は
おれ達をいともたやすく安心させた。
これで何もかもが終わって、全て元通りになるのだと
あの時は疑うことさえしなかった。



 

着いた先はあっちの世界で、かごめが家族と再会したのを見届けた瞬間
おれは強い力で引き離されるように、こっちの世界に戻ってきていた。

 

 

…まるでそれが、元通りの正しい形だと言わんばかりに…

 

 

 

 

…最後に見たのは、あいつの泣きはらした顔…

 

 

 

 

…耳に残るは、あいつがおれを呼ぶ声…

 

 

 

 

 

 
 

第二章

 

 

 

「…夜叉、犬夜叉!何をぼ〜っとしておるんじゃっ」

いつの間に乗ったのか、頭の上から七宝が呼びかける。

「弥勒が、出かけるから犬夜叉を呼んでこいと…わわっ何するん…っ」

最後まで言い終わらないうちに、犬夜叉は七宝の襟首を掴むと無造作に横へと放った。

「ああ、今行く」

…こちらを振り返りもせずに通り過ぎていく背中に、七宝は小さく毒づく。

「…どうせまた、かごめのことを考えておったんじゃろ。かごめがいなくなってから
一段と
感じ悪くなりおって…。…いくら寂しいからって、おらにあたらんでも…っ」

 

ちくん


 


七宝の小さな胸が痛んだ。

(…おらだって…かごめがいなくなって、寂しいんじゃ…弥勒も…珊瑚も…)
 

「寂しいのは、犬夜叉だけじゃないわい!」

叫ぶ七宝の言葉も虚しく、眼前にはもう、犬夜叉の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…来ましたね、そろそろ行きますか。」

支度を整えた弥勒が、犬夜叉の姿をみつけて手をあげる。

「…別におめぇが行かなくても、妖怪退治なんて、おれ一人でいいんだぜ?
それにもうすぐ生まれんだろ?…いいのか?」

「阿呆ぅっ」

犬夜叉の言葉を短く制し、その頭にコツンと錫杖をあてるとシャンと小環の小気味よい音が響く。

「今度の退治はそこらのとはワケが違うのだ。名だたる名家からの申し出でな、報酬もたんまりもらえるだろう。
妖怪退治にお前一人が行っても、後の交渉はどうするのだ?
これからいろいろと物要りだしな、私が行って、貰えるものは貰っておかんと…」

真剣な顔でもっともらしく言う弥勒を犬夜叉は、またかという表情で見る。

「…弥勒、てめーまたぼったくるつもりか?」

“この前も…”と続けそうになる犬夜叉を横目で受け流し

「人聞きの悪い。有るところから、取れる時に取っておくのだ」

悪徳代官を思わせるような科白で開き直ると、弥勒はすたすたと歩き始めた。

「…急ぐぞ犬夜叉、夕暮れまでには戻りたい。帰る頃にはもう生まれてるかも
しれんからな」

…三人目の誕生とはいえ、やはり心が急くのだろう。
弥勒は足早にどんどん先へと進んで行く。
 

「…ったく。だったら、こんな時に行かねーでも…」


今度は
犬夜叉が弥勒を追い越してずんずんと歩を進めた。
…その脇をさらに小走りに弥勒が追い越す。

「こんな時だからこそ、だ。…男は居ても何もする事がない」

「そーかよ、んじゃ、先行くぜ」
 

ゴッ

 

犬夜叉は軽く地を蹴って、ひとっ跳びに弥勒のさらに先を行く。
陽に透けてきらめく銀の髪がなびく様を見ながら、弥勒は恨めしそうに呟く。

 

「…犬夜叉、おまえが私をおぶれば速…」

「急ぎてぇんなら、とっとと走りな」

ぴしゃりと言い捨てられ、弥勒は溜息を漏らしながら足を速めた。
 

「…かごめ様以外は、やはり駄目か…」

目の前を行く地獄耳に聞こえぬよう、そうひとりごちた。

 

…それでも、さほど遅れることもなく、弥勒もまた常人離れした速さで駆けて行った。

 

 

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