『かごめ様も、同じ気持ちで…』


頭の中、弥勒の言葉が木霊する

運命とか、奇跡とか…
そんなもん関係ねぇ
 

もしかごめがおれを待っててくれてんなら
おれはどこまででも迎えに行く



…だから

もう一度…

 

 
 

 

 

第七章

 

 

 1.
 

「かごめーーーー…っ」

落ちていくその先へと声の限りに叫ぶ。

この匂いを間違うはずがない
この感覚を忘れるはずがない

だが、確信するにはあまりにも唐突すぎて、身体は反応してるのに頭がついていかない。

それでも無我夢中で薄明かりの射す方へと勢いよく飛び出した。
降り立った場所は、かつてよく知った懐かしい匂いに満ち溢れていて
足の裏に感じるのは、いつもと違った感触…


「犬の…にいちゃ…!?」

名前を呼ばれたような気がしたが、頭がうまく働かない。
じっと前を見据えたまま、固まったかのように動けずにいた。

 

「…い…ぬ…?」

目の前には瞳を大きく見開いた女
…夢にまでみた愛しい女の顔



ー…また、都合のいい幻でもみているのだろうか
おまえもあの笑顔で優しくおれを呼び
触れる瞬間…消えてしまうんだろう


…いや、それでもいい
ほんの一瞬だけでも…
 

震える指が女の頬にかかる。

…温…かい…?
そう思った瞬間さらに熱いものが指を伝う。

「…犬夜叉…なの?本当に…犬夜…っ」

女の瞳が揺れて滲む。
自分を呼ぶ掠れた声が、流れ落ちる涙が、頭を現実へと引き戻す。


「…っ!」

夢中でその体を掻き抱く。
跳ねた髪からふわりと広がる優しい匂い。


「…めっかごめ…っ!!」

何度夢に見てきただろう
何度幻を抱き締めてきただろう

だが今、まわした腕、抱いた胸に感じる温もりが、体で感じるそのすべてが
これが夢や幻ではない、と裏付ける。

「かごめっ…会いたかった…っ」


自分でも驚くほど素直な言葉が口から零れる。

…かごめ…かごめ!!

やっと…

逢えた…


意地も虚勢も強がりも、必要ない

もう、何も

いらない

かごめの他には

何も





「犬夜叉…っ」

頬に吐息がかかる。
そっと背中に伸びてきたかごめの腕を感じ、犬夜叉はさらにかごめを強く抱きしめる。
身体が軋む程腕に力を込めると、かごめが小さく声を上げた。

「…悪ぃ…」

力を緩めると、かごめがそっと身体を離し、おれをみつめる。
大きな瞳からは後から後から涙が溢れ出てきて、着ているものに染みを作っていく。


…おれの頭一個分くらい下の…そうだ、これくらいの背丈だったな。

…だけど少し、痩せたのだろうか

それから…すごく綺麗になった…



涙を指で拭うと、その手にかごめの手が重なりやわらかな頬へと引き寄せられる。

おれの手の温もりが、かごめの頬に移る。
かごめの温もりが、ゆっくりとおれに移り沁みこんでいく…


離れていた三年間を思い、めぐり逢えた喜びに魂が震える。

「かごめ、ごめんな……待っていてくれたか?」

確認するような言葉に、かごめはおれの目をじっと覗き込み、ふっと表情を弛めると
おれの胸に顔を埋める。

「…ばか。あんまり遅いから、私が行くとこだったわよ…」



腕の中には、確かな温もり。
あの日失った時が、今再び合わさり重なって
同じ流れを刻みだす。


夢でも、幻でもない
本当の本物のかごめ。

二度と離さねぇ
離してやらねぇ

…そう魂に懸けて固く誓う。


隔てる少しの隙間さえも埋めるように
二人はいつまでも抱きしめ合っていた。


 

 

 

  next/back

駄文置き場へ戻る

TOPへ戻る