2.
 

「…かごめ?」

犬夜叉の気遣う声に、かごめはそっと目を開ける。
知らず息まで止めてしまっていたようで、肺に溜めた空気を吐き出す。
お互いに顔を見合わせて地に降り立つと、ぐるりと周りを見渡してみる。
薄暗い祠の中は、埃っぽい懐かしいにおいで満ちているだけで、何も変わったところはなかった。

犬夜叉に手をひかれ、一歩、また一歩と注意深く歩いてみるが、やはり異常は感じられない。

二人で扉に手をかけ、思いきり開けてみた。
外は意外な程に暖かく、柔らかな日が射していた。

「おっこっちはいい天気だな」

眩しそうに目を細め、犬夜叉は繋いだままの手でかごめを外へと連れ出す。
いつもならすぐに手を放すのに、神社の砂利道を歩く時も犬夜叉はまだ手を握っている。
かごめは嬉しくなってその腕にぎゅっと抱きつく。

「あれ?姉ちゃんと犬の兄ちゃんっ」

いきなり後ろから声をかけられ、かごめは咄嗟に手を離す。
振り返ると学生服を来た弟が笑顔で立っていた。

「草太?!…あんた背が伸びたわねーっ」

すでに自分の身長を追い越している弟にかごめは驚き駆け寄る。

「成長期だしね、あ、部活はバスケとか聞かないでね、僕囲碁部だから」

笑いながら草太は犬夜叉の方に視線を移す。

「犬の兄ちゃん、久しぶりだねっ皆喜ぶからゆっくりして行ってね」

屈託なく笑う草太に犬夜叉も片手を上げて応える。

そこでかごめは弟の荷物の多さに気付く。
提げているいくつかの紙袋の中から覗いているのは、可愛らしくラッピングされたプレゼントのようだった。

「草太って…結構モテるのね…」

かごめは感心したような声を出す。

「下駄箱とか机の中に入ってたから、そのままにしておけないからさ」

そう言って草太は姉に続けざまに小声で耳打ちをする。

「姉ちゃん、今日帰ってきたって事は、チョコ買いに行くつもりなんでしょ?」

…この弟は、時々鋭い事を言う…

「…おい、どーした?ちょこって…」

聞こえはしたが内容がわからないと言った風で犬夜叉が口を挟む。

「そうだっ、犬の兄ちゃんも一緒に買い物行ってきなよ。僕の大きめの服貸してあげるから」

「…あ?出掛けんのか?」

犬夜叉がかごめを見る。

「う、うん…いい…かな?」

かごめが言うと、犬夜叉の返事も待たずに草太が割り込む。

「じゃあ着替えなきゃっ犬の兄ちゃん、僕の部屋行こうっ」

草太は犬夜叉の袖をぐいぐい引っ張って歩き始めた。

「おっおいっ」

草太の有無を言わさぬ強引さに少し困ったような顔をして、それでも腕を振り払わずに犬夜叉はついていく。
そんな二人をかごめは微笑みながらみつめていた。

「おいかごめっ」

犬夜叉が呼ぶ。

「うんっ」

元気よく返事して一度祠を振り返る。

…井戸の中は、きっと戦国の雪景色へと繋がっているだろう。

かごめは自分自身に頷くと、前を向き、先を行く二人を追いかけて行った。

 

 

 

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