3-2.    -kagome side-



「おかえりなさい。犬夜叉くんもかごめも元気だった?」

家に着くと、ママとじいちゃんが小走りに出迎えてくれた。

「おおっかごめっ元気にしとったかの」

「うん、ママ、じいちゃんただいま。いきなり来ちゃってごめんなさい。今日はお世話になります」

頭を下げるとじいちゃんが慌てた。

「そそんなのはいいんじゃっささ、上がれ上がれ」

「犬夜叉くんも、さ、上がってゆっくりしてね」

…ちっともこっちに顔出さなかった私を責めずに、ママもじいちゃんもいつも通りに笑ってくれている。

私は犬夜叉を居間まで連れて行って、コートを脱ぐと、ママがいる台所へと向かった。

 夕飯は私も手伝って、シチューと唐揚げとサラダを作った。
もちろん、シチューのニンジンはハート型に。

皆でこたつに入って、ご飯を食べて…
犬夜叉もシチューを気に入ってくれたみたい。

 夕飯の後、草太に犬夜叉を任せて、私はママと後片付け。

「さ、ここはもういいわよ。…やる事あるんでしょ?早くしないとね」

ママがウインクをしながら私の肩を押す。

「ありがとう」

ママは何でもお見通しだ。
私は台所の隅に置いていた紙袋から要るものを取り出し、テーブルに並べた。

まずは材料を量って、バターを練って砂糖を加えて、卵を入れて混ぜる。それから粉をふるって…
…最後は型抜きをして焼く。
私はオーブンの温度設定をしてスタートボタンを押した。

 焼き上がるまでに別のものをもう一つ。
今度はマーガリンを泡だて器で練って砂糖を加えて、卵とその次に粉とココアとチョコチップ…
…で、これを型に流して焼く…と。

 ふと気になって居間を覗いてみたら、こたつのテーブルの上には草太が貰ってきたプレゼントの袋が置かれ
犬夜叉にバレンタインの意味を説明している途中のようで…

「…で、『義理チョコ』『本命チョコ』『友チョコ』なんかもあるんだけどね、女の人が男の人に想いを伝える時に
チョコレートも一緒に贈るっていうのがだいたいの意味だよ。」

「…はー?じゃあ今日がその、ばれんたいんでーとかいう日で、コレ全部お前ぇが女からもらったって事か?」

「あ、でも義理も入ってるから、全部が本命ってわけでもないよ。それに手紙とか入ってるならまだしも、ただ
贈って満足って子もいるみたいだから、名前わからないとお返しもできないんだよね」


(…うわー…草太って……。っていうかお返しもちゃんと考えてるんだ。…律儀だけど破産しそうね…)

モテる男も大変だ、と私は肩をすくめる。


「…待て、お返しって何だ?」

「え?犬の兄ちゃん、姉ちゃんにお返しした事ないの?…って、貰った事とかは…??」


(…なんでその話題をふるかな、草太…)


居間に駆け寄りたい気持ちをぐっと抑えて、私は聞き耳を立てた。


「…あー…あの甘ぇのがちょことかいうやつか?…そういやかごめが前にそんな事言ってたかもな」

「きっとそれだよっ受験前でバタバタしてたのかなー?説明も無しにもらったの?」


(…あれ?これってあの時の事?…え、ちょっと…犬夜叉…っ)


何を言い出す気!?と止めに入るつもりが、時既に遅し。


「もらったというより、舐め取ったというか、かごめが口に入れた後だかんな」


(ああ…)


私は脱力して床に膝をつく。
居間の空気を考えると、しばらく立ち直れないかも…


少し間を置いてゴトンと湯呑みが落ちるような音が。


「ぅアッヂィッ」


(…あの声はじいちゃんっ…ああ…聞かれた…)


「…んなっなっ舐めとったじゃと…っ?!」

「あらもうこんな時間だわ、先にお風呂に入られてはどうです?」

ママのお陰で皆、じいちゃんの剣幕をこれ以上見ずに済んだようね…
ありがとう、ママ…

 私は起き上がって作業に戻る事にした。

…ただ黙々と…
一心不乱に…


「…そっか。ディープキスで奪い取るなんて、犬の兄ちゃんもやるねぇ」

ダダダダダッ

私は思わず走り出していた。

「あんた達っいい加減にしなさいよっ!!」

叫んで犬夜叉をギロリと睨む。


(これ以上余計な事を言ったら、わかってるわよね?)


犬夜叉はちらりとこっちを見ると、ふふ〜んとでも言わんばかりに小意地悪そうな笑みを浮かべている。

「犬夜叉ーー…っ!!」

言葉と同時にオーブンの電子音が重なる。

「あらかごめったら。犬夜叉くんとはもう夫婦なんだから、そんなに照れる事ないじゃないv」


(…ママ…恥かしいものは恥かしいのよ…それに夫婦って言われる方がもっと照れるんだけど…)


喉まで出掛かった言葉を長いため息と共に消し去ると、私は台所へと戻った。


(集中しよう…とりあえず作る事に専念しよう。無駄に時間は割けないわ。…うん、私はやれば出来る子…!)


雑念を掃うと決めたのに、居間での会話が勝手に耳に入ってくる。

「じいちゃん早風呂だからすぐあがってくるよ。次、犬の兄ちゃん一緒に入ろうっ」

「だーっもう、わかったから引っ張るなって」


(…草太、あんなになついちゃって…寂しかったのかな…)


私が家を出ちゃったから…?…と考えあぐねているとまた手が止まってしまっている事に気付いて焦る。

「ああもう早く次の焼かなくちゃっその前にオーブンから出さないとっ」

オーブンの扉を開けると、いい香りが台所いっぱいに漂って、幸せな気持ちになる。
…これを渡した時の相手の事を想像すると、行動が読めなくて複雑ではあるけれど…。
ラッピングの事も考えると、なんだかわくわくしてきて、後半の作業はかなりの最短で終える事が出来たと思う。

…喜んでくれたら、嬉しいな…


出来上がった包みを前に、私は満ち足りた気持ちで伸びをした。

 

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